NORIKO YANAGISAWA

美術家・版画家 柳澤紀子

上海半島美術館(2016)

柳澤紀子 上海初個展 【Original Memory-Omen】

■展覧会レポート 竹内健太

上海外灘北部にある上海半島美術館で柳澤紀子の個展「Original Memory-Omen」が10月22日から11月15日まで開催されました。

最初的記憶

本展覧会開催のきっかけは、2014年末の上海最大の国際版画展の第三回上海国際版画展「閲人(Reading People)」でした。キュレーターの盧治平氏が、日本からの出品作の中から、詩的な優雅さと原始的な野性味を併せ持つ柳澤作品の現代性を高く評価、同氏の熱意が周囲を動かし、上海市対外文化交流協会をはじめ多くのサポートを得て、およそ1年の準備期間を経て実現しました。

展示作は柳澤の学生時代の初期作品「聖」(1964年制作)から代表作「水邊の庭」シリーズ、チェルノブイリ視察後に制作された最新作「ニガヨモギⅠ」(2016年)まで計87点。

展覧会の様子

ニガヨモギⅠ/聖

10月22日のオープニング当日は生憎の大雨でしたが、上海やその近郊の版画家、国内外のアートファン、地元メディアなど多くが来場し大変な賑いとなりました。

ギャラリートーク

ギャラリートークは翌日開催されオープニング以上の大変な賑わいでした。コーディネーターとして事前に作家とトークの内容について打ち合わせした時、「今回実演はせず、展示作品や私の考えるアートについて館内を歩きながらお話します」といわれて、少々心配でした。というのは中国ではまだそのようなスタイルは珍しく、若いオーディエンスは技術的な分かり易い成果を期待しているのではないか、また通訳が入るのでアーティストの気持ちや考えがオーディエンスに伝わるのか、など不安がありました。柳澤作品の多くは、詩的な内容であり、様々なモチーフで紡がれた物語のようなアート作品なので、通訳を介して伝えるというのは容易な事ではないからです。

柳澤紀子

しかし心配は無用でした。トークが始まる前に作家が用意していたものは2枚の銅版だけ。それもオーディエンスにさっと渡して、本人はさっさと自己紹介して作品を語りはじめました。熱意を込めて語る姿と、通訳を著名版画家で東京藝大留学経験がある張遠帆さんが引き受けてくださったおかげで「質問に対してなんでも誠実に答える」という姿勢がうまく若い人々に伝わり、最初から活発な質問が飛び、対話が始まりました。

質問 「作品にしばしば登場するモチーフであるアンモナイト、片方だけの翼、半人半獣の動物たちこれらにはどういう意味がありますか?」

柳澤 「どのモチーフも言葉にできないから絵画の表現を使ってるのをわかってほしい。私にとってアンモナイトは古代、長い長い時間と記憶の象徴です。片方だけの翼、これは自由の象徴である翼が飛べないわけですから、ハンディキャップ、不安定な状況の中にある希望を意味しています。翼は片方だけのほうが美しいと感じます。半人半獣は、人間と動物の平等な世界を象徴。犬をはじめ人は昔から動物と共に生きてきたわけですから、生物として対等の関係であるべきだと思う。」

Test Zone Ⅱ

質問 「テストゾーンとは福島の大地震の後原発の影響を考えて作ったのか?」

柳澤 「東日本大震災は2011年3月11日に起きた。この作品は2006年の作品でそれ以前の作品です。私は核には絶対反対。あんな恐ろしいモノは人間が扱えるものじゃない。それでも人間はあちこちで核の実験を行い自然やそこに生きる生き物を殺し、生物が住めないようにしてしまう。その恐ろしいものを、おどろおどろしい表現にはしたくなかった。この作品の華やかさは核の光のイメージなのです。だからこの作品に関しては敢えて大きく、カラフルでコラージュを使って華やかな雰囲気に仕上げました。」

こうした作品をめぐる質問に混じって、国は違えど若い芸術家は将来に不安を抱いているのは同じで、「日本の版画を学ぶ大学生は卒業後どんな仕事をしますか?」という質問もあった。

柳澤氏は「多くの学生は就職できない。自分で制作したり版画工房で刷師の仕事をしたり、学校の先生になったり、デザインなどの仕事をしたりしながら、版画の制作を続けているが仕事や工房環境の条件で続けられない人もたくさんいる。」

質問 「先生ご自身は卒業後すぐにアーティストとして活躍できたのでしょうか?」

「10年位はプライベートで絵を教えた時期もありました。家族のことなどで限られた時間しかなかったから版画はなかなか作れない時期もあったけど、若い時に版画協会の会員にしていただいたから協会への出品はずっと続けていました。制作ができない時に出品する機会があったのはとても助かりました。」と実体験などを交えた率直に語り、年代を超えた共感が広がった。

「版画を志す人にとって大切なことはなんだと思いますか?」との質問には、柳澤は「技術的なことよりも何を描きたいのかということを大切にして欲しい。確かに版画は様々なテクニックやテクスチャーがありデジタルや写真を取り込んだものなど直接描かなくても、そうしたものを利用して出来たような感じがしてしまうがけれど、そうした作品は一見うまく出来たように見えてるだけで、本質ではないと思う。手で描くという行為を疎かにしてはいけない。先ずは描くことが大切です」というメッセージは、大きな拍手で受け止められました。

集合写真

最後に柳澤氏は「みなさん、大変熱心で、好奇心が旺盛、若い方達の眼に日本では見られないような輝きがある事に、こちらが逆に感動を覚えました。やってよかった」と楽しそうでした。

上海半島美術館
TEL:0086-021-6072-6079
上海市虹口区東大名路687号2階 MAP

上海半島美術館